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クラウンMS70リアルトレース作品  著作:オカダ・システムエンジニアリング研究所

 リアルトレースとは、Adobe Illustratorという画像作成ソフトを用いて写真や現物を模写する作品を作成すること、またはその作品を意味する用語です。
 リアルトレースにも幾つかのカテゴリーがあります。(私独自による定義です。)
1. 静物をトレースしただけのもの。仕上がりは写真と同等。
2. 上記のトレースに加えて、現物以上に美しく描写・加工したもの。
3. テクニカルイラストレーションと2のトレースとの中間的な作品。

 1は、静物を単純作業でトレース・着色しただけの作品となります。実に細かい作業になり、手作業でやると膨大な時間を費やしますが、慣れれば誰でもできる単純作業に過ぎません。Adobe IllustratorのCS2以降のバージョンではライブトレースという機能が搭載されており、これを使えば10秒も経たずに完成してしまう作品です。但し、この種のリアルトレースをAdobe Illustratorを使ってやるのは余りにも芸の無い作業です。作品を縮小して遠目に観察すれば写真と変わりないからです。

 2は、1を発展させたもので、静物描写に加えてどうすれば一層の遠近感や質感が表現できるか、また写真のトレースでは、写真という性格上どうしても避けられない無駄な反射や陰を除去するという技術が要求されます。現物の画材を使用した描画経験の豊富なイラストレーター位でないと、この作業はできないでしょう。この種の作品は高級腕時計、宝飾製品のカタログに使用される画像においては一般的に使用されるようになってきました。今後も、写真以上の出来映えを要求される製品の画像として幅広い応用が期待されます。

 3は、イラストをある程度まで写実化したものです。基本はイラストに過ぎませんが、作風を1の部類の「写真」に近づけるのではなく、2の部類に近づけて描写します。私の作品は、これに該当します。
写真ならば、フェンダーミラーの影がボディーに映り込んだり、光沢のあるボディーに周辺の景色が映り込んだりしますが、これらを表現することはテクニカルイラストレーションの求めるところではありません。しかし質感や遠近感を表現するための陰は、必要なだけ表現しなければなりません。着色は写真よりもハイコントラストになり、陰になった部分の正確な描写も必要となります。

 今回の私の作品では、初めて本格的な自動車のリアルトレースに挑戦するに当たり、ボディーカラーを白と決定してから作業を開始しました。
 白以外のボディーカラーでは、周辺の景色のボディーへの映り込みをある程度詳細に描かないと立体感が出せなくなることが予想されたからです。また、白ならばボディーの曲面を表現するのに白と灰色のグラデーションを行うだけでよく、これが難しければ白のベタ塗りで逃げてしまうことが可能だからです。しかし、白と灰色のグラデーションによる描画を選んだ結果、わずかな色合いの違いで曲面を表現しなければならなくなり、ハイライトをどこに付けるか悩みながら作業することとなりました。
 ホイールは、元絵(トレースの元となる画像)の解像度が低く、どのような形状になっているのかわからなかったため、別のホイールの画像をライブトレースして貼り付けたものです。リアルトレースでは細部までの写実的な描写が要求されるため、いい加減なデッサンを行うと実に目立ちます。私はリアルトレースの作品でオートバイを描画した作品をWEBサイトで鑑賞したことがありますが、元絵の解像度が低いために細部の部品が単純な円形や長方形の組み合わせで作られたものがあり、それが目立ち過ぎて全体的に手抜き感が感じられる作品になっていたのを記憶しています。私は、始めからこのような作品は絶対に作らないと決意して作画を行いました。
 フロントグリルは、これも元絵の解像度の問題から描写が難しかったのですが、幸いにも私が所有しているMS70のフロントグリルとセンターマスコットの中古部品を観察して詳細に描き入れたものです。
 レンズ類は、写真をトレースせずにイラスト調に描画しました。現物には無い格子状の白線を描き込んで透明部品らしさを表現しました。この作品の中で最も上手に表現できた部分だと思っています。
 細かい部分の描写や、コントラストにまだまだ改善の余地があるなどの点等は、これが私の生涯2作目のAdobe Illustratorによる作品であることを以て御容赦いただきたいと思います。(処女作は、Adobe Illustrator入門4日目で完成させた、雪国黄精のHPのタイトル画像です。)
 この拙作から、リアルトレースとは何か、そしてその応用の可能性を理解していただければ嬉しいです。